*Bloomin'!*
「おい喜多っ……!」
新渡米の制止を無視して喜多はそのまま顔を埋めた。
「っ」
震える肌をなだめるようにそっと撫でる。
目線を上げて新渡米の様子を伺うと次第に芽から伸びた蕾が膨らみ始めている。
(もうちょっと、かなぁ?)
「お前ぇ、もう良いって……」
目尻に少しばかり涙を浮かべて睨んだ所で逆効果だという事には気付かないらしい。
喜多は口許に淡い笑みを残したまま肌スレスレで言葉を紡ぐ。
「遠慮なんかしないでくださいよー?」
這うように触れる吐息に新渡米がふるふると頭を振ると芽も一緒に揺れる。
「……ッ喜多ぁ」
どちらの意味にも取れそうなその声音に一瞬迷いつつも、結局都合の良い方に取ることにした喜多は攻める手を強める。
「っン〜」
蕾はもう綻びかけている。
「ヨかったらちゃあんと言って下さいねー?」
「おっ前なあ〜」
恨みがましい目はそれでも自分に対する嫌悪を含んでいるようには見えない。
自惚れかなとも思いつつ、かと言って今更やめられる訳もない。
何としても花を咲かせたいのだ。
「新渡米先輩……」
「! うゎ」
もはや力の入らない体をそれでも押さえ付け、ダメ押しのように口に含むと途端に新渡米の背が反り返る。
「あアっ」
絞り出すような悲鳴があがった瞬間蕾が微かな音を立てて開いた。
肩で息をする度に揺れる花は小さく影を落とす。
顔を上げて新渡米を抱き起こすとはずみで鼻先を花弁がかすめていった。
(あ、良い匂い……)
しかし体は突然の刺激に正直だったようで、むず痒さを必死にこらえようとするがもうどうにもならない。
「ハックシュン!」
眼前で盛大なくしゃみをかまされてさすがの新渡米も余韻が吹き飛んだらしい。
「お前ねぇ〜」
いきなり両頬をつねられた喜多は情けない顔になる。
「ムードってのはないの〜?」
「ふいまへーん」
苦く笑うしかない喜多は頬をつねられたまま謝罪の言葉を口にする。
そんな様子に新渡米も寄せた眉間を緩ませた。
「たまには気も利かせろよ〜?」
頬を解放しながら笑う新渡米に一瞬見とれた喜多は指が離れると同時に頭を胸に抱き寄せた。
「喜多?」
自分の手で開かせた花に小さなくちづけを落とすと、新渡米はくすぐったそうに目を細める。
「綺麗ッスね」
柄にもない喜多の言葉に新渡米は目を見開く。
「こんな感じでいーんですか?」
あっけに取られていた新渡米も結局はいつもの調子の喜多に笑みをこぼす。
「お前には十年早いんだよ〜ん」
その時のすっかりと綻んだ笑顔に揺れる花が喜多の心に強く焼き付いた。
end
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