*サマー・シャワー*
腕の中で海堂がもがいている。
乾の部屋に入った途端に抱き締められた海堂は、首を振り身体を捻り腕を突っ張って全身で抵抗している。
炎天下をマンションまで歩いてすっかり火照った二人の肌が汗で擦れる。
「先輩、やめ、っ」
「したくない?」
表情を覗き込むように尋ねると困り切った吐息が唇から零れ落ちた。
「……汗、かいてるから……」
「じゃあシャワー浴びてくるか?」
思わぬ乾の言葉に海堂は伏せていた顔を上げた。
普段の乾ならば海堂がどんな理由をつけても腕を緩めることなく、巧みな言葉と身体で海堂を丸め込む。
「え……、」
「気になるんだろ?」
行っておいで、と優しく言われて海堂は一瞬面食らった顔をした。
「……ッス」
珍しく強引さのない乾の態度に驚きながらも、これ幸いとばかりにそそくさとバスルームに向う海堂の後ろ姿を乾は満足気に見送る。
ほどなくして聞こえてきた水音を確認して廊下から部屋に戻る。
逃がしてあげたわけじゃない。
エアコンを調節しながら乾の口元には笑みが浮かぶ。
部屋に戻ってくる頃には先ほど以上に羞恥に顔を染めた海堂が見られるだろう。
そう、今海堂は乾に抱かれるそのためだけにシャワーを浴びている。
身体を拭く頃には海堂もそのことに気付くだろう。
自分の意志でシャワーを浴びた以上、もう逃げ場はない。
乾の待つ部屋に一歩一歩どんな思いを踏みしめながらやってくるのか、想像するだけでたまらない。
素直になれない海堂を強引に抱き寄せてやる方が余程甘やかしているということに海堂は気付いているのだろうか。
甘やかすのも悪くはないけど、そろそろ自覚してもらわないとね。
今日は自分の足で俺のところまで歩いておいで。
■BACK■
うっかり消え去った小話用掲示板より救済。
この後乾はなんかもう悲壮さすら漂う顔で戻ってきた海堂に「俺もさっぱりしてきた方がいい?」などとわざとらしく尋ねるわけです。
海堂はつい時間を稼ぎたい一心で乾をバスルームに向わせたあと、その恥ずかしさにまたしても頭を抱えてみたり。
バスルームから戻ってくる乾の足音にうろたえまくる海堂とか萌えませんか?