猫はどこへ行ったのか
男は猫を飼ったことがない。
そんな時間はないと男は言う。己のことが精一杯、猫の面倒を見る暇などない。
だが男の傍に猫がいた。
勝手についてきたのだと男は言う。撫でてやるくらいはやぶさかではない。
猫はたまにしか男の傍にいなかった。
どこか別のところで飯を食っているのだと男は言う。俺の傍があいつの家じゃあない。
猫が男の膝にのっていた。
この方が心地いいんだろうと男は言う。けれど餌をやっていないから、俺が飼ってるわけじゃない。
男が猫を飼っていないと言うように、猫もまた男に飼われているつもりはなかった。
猫は男を好きだったが、決して男の傍に住み着かなかった。
猫にとって男の傍は気に入りの場所のひとつ。ただのひとつ。
そして男もまた、猫だった。
猫のくる男の傍は、男の帰る場所ではなかった。
猫はそんなことには頓着しなかった。猫は、猫であるから。
そんな二人、互いの合間にあるものは、心地よいばかりの知らぬふり。
ある日、男のもとに猫はいなかった。
死んだんだよと男は言う。飼ってはないから埋めてやらなかったし、そもそもどこで死んだのかも知れないが。
猫はどこへ行ったのか。本当に死んでしまったか。
知らないよと男は言う。知る必要がないのかもしれないし、ようは男も、知りたくないのかもしれなかった。
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(これで高吉とか言い張ります)
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