*船上のボーイズ・ライフ*
1.
その日は朝から清々しく晴れていた。
客船が停泊している港には、浜辺とはまた少し違った匂いの潮風が吹いている。
やや強めの風は海面を波立たせ、船の側面を気紛れに叩いた。
テニスの道具さえ持ってくれば、あとはすべてこちらで用意すると招待状に書かれていたので、俺たちは私服にテニスバッグひとつという身軽な姿で船上に足を踏み入れた。
デッキに立った時点で騒がしい桃城が声を無くすほど、それは立派な客船だった。
乗り込む前に見上げたときから分かってはいたが、実際に乗ってみると改めてため息が洩れる。
船内の内装も一流のホテルのような品の良いきらびやかさで、廊下に敷き詰められた深紅の絨毯が九つの足音をやわらかく包み消した。
「とりあえず荷物を置いてから、一度桜吹雪さんの部屋に来てほしいそうだ。俺たちの部屋はツインを四部屋用意してくださってるそうだから、今から部屋割りを決めよう」
客室の続く一角で大石先輩が立ち止まる。
「でも大石、ツインって二人部屋だろ? 俺たち九人なんだから一人余るじゃん」
「エキストラベッドがあるそうだから、二人部屋がみっつと三人部屋がひとつになるみたいだな」
プランの記された紙を見て菊丸先輩の疑問に答えたあと、さてどうやって決めようか、というように全員の様子を大石先輩が伺う。
この快適そうな船の上での数日間を期待通りに過ごせるかどうかに、この部屋割りは大きく関わってくる。
全員が本気でその方法に頭を巡らせかけたのを断ち切るように、涼やかな声がひとつの提案を告げた。
「手っ取り早くクジで良いんじゃない?」
そう言うとペンとノートの切れ端を不二先輩が差し出した。
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