*船上のボーイズ・ライフ*














 4.




「……ぴったりなのが怖いな」

 部屋に戻り、パーティーでの正装にとプレゼントされたスーツに腕を通して二人で顔を見合わせた。
 スーツはまさに誂えたように上下ともぴたりと体に沿った。

「身長はともかく、他のデータをどうやって取ったのかが気になるな……」

 いかにも乾先輩らしいことを気にしている横で、箱の底から磨かれた革靴を見つけて固まっていると、ブツブツと何事かをつぶやいていた先輩が俺の胸元に目を留めた。

「あれ、ネクタイは?」

 ベッドの上に放り出したままの茶色のネクタイに横目を走らせて口籠もると、事情を察した先輩は少し意地悪そうに笑った。

「ネクタイ、しないのか?」

「…………結び方、教えてください」

 普段ネクタイをする機会はなく、父親が毎朝結んでいるのを目にしていても、覚えようと思って見ているわけではないので全く見当が付かない。
 先輩は自分の分をいつのまにか結んでしまっていて、その出来上がりを盗み見たところで手も足も出なかった。
 降参した俺を見下ろす先輩のネクタイは、形よくその胸に収まっている。

「口で説明するのはややこしいから、見て覚えてくれるか?」

 ネクタイを拾い上げた先輩がなぜか背後に回るのを不思議に思う間もなく、背中から抱き込まれた。

「自分のと同じ向きじゃないと結びにくいからな」

 強ばらせた身体をあやすように言われる。

「よく見てて」

 シャツの襟を立ててネクタイを首に掛けると、左右から腕が回される。

「まず幅の広い方を上にして……」

 両腕に囲われたまま耳元でレクチャーされても頭に入るわけない。
 胸の上を行き来する長い指が平静な思考を奪っていく。
 結び方を覚えなくてはいけないのに、目をつぶってしまいたくなった。











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乾と海堂はともかく、手塚のあの紫の衣装が自前だったら凄いと思って…。