*船上のボーイズ・ライフ*
5.
「はい、出来上がり。苦しくないか?」
時間なんか一分も経っていないのに、とても長い時間が過ぎた気がする。
ネクタイのせいでなく胸が苦しいなどと素直に言えるはずもなく、こくりと頷く。
そんな胸の内を見透かされたのか、そのまま後ろからぎゅっと抱き締められた。
「ちょっ、なに……、シワになるだろ、」
なんとか腹に力を入れて抵抗する。
「じゃあ、脱がせてあげようか?」
「ふざけんな」
「冗談だ」
腕は身体に回されたままだったが、あっさり力が抜かれる。
スラックスに穿き替えた際に裸足になったままの足元は、すでに頼りなかった。
「そうだ、折角だから自分で練習しておくか?」
後ろから抱きかかえられたまま、結び目に指が差し込まれて緩められる。
ネクタイは簡単に解かれて、結ばれるよりも堪え難いその光景に頭の芯が熱くなる。
恐らく先輩にはなんの悪気もなく、だからこそ意識しすぎる自分がみっともなく感じる。
「今度は自分でやってごらん」
ついに抜き取られたネクタイを握らされる。
回されていた腕が外されて、心許なさを感じた自分が恥ずかしい。
背後に立ったままの先輩に促され、のろのろとネクタイを首に掛ける。
「できるか?」
結び方を思い出そうとしても、眼に焼き付いているのは先輩の指の印象ばかりで捗らない。
「……できない?」
|