*船上のボーイズ・ライフ*
6.
じゃあもう一回やってみせるから、と再び回されかけた腕に降伏寸前で目をつぶった瞬間、菊丸先輩の大声がした。
「乾ー、海堂ー、いるー?」
遠慮のないノックに金縛りが解けるように身体が動く。
「今開けるッス」
裸足のまま慌ててドアに駆け寄りロックを外す。
勢いよく開いたドアの向こうには、俺たちと同じく正装した菊丸先輩と不二先輩が立っていた。
「あ、海堂も着てみた? これ全部くれるなんてすっごいよなー」
気前の良すぎるプレゼントに、菊丸先輩はいつも以上にテンションが上がっているらしく部屋に飛び込んでくる。
そのまま乾先輩のスーツ姿を見てまた奇声を上げた。
「悪いね、うるさくして。まだ着替えてる途中だったんじゃない?」
不二先輩の言葉で裸足でネクタイを首に掛けたままの自分の格好を思い出し、何となくバツの悪い気分になる。
「いや……、平気ッス」
「そう? それならいいけど」
英二がみんなの様子を見に行こうってきかなくって、と肩を竦めた不二先輩は隙なく衣装を着こなしていた。
「よーし、次は桃んとこだな!」
一人騒がしかった菊丸先輩はひとしきり俺たちを眺めまわして満足したらしい。
「乾と海堂も一緒に行く?」
「いや、いいッス……」
「俺も遠慮しておくよ」
「つまんないのー。まあいいや、不二行こ」
「じゃあお邪魔しました」
来た時と同じ慌ただしさで二人が出ていくと、部屋は急に静かになった。
けれど散々かき回された空気に先程までの緊張感はなく、俺は少しほっとした。
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