*船上のボーイズ・ライフ*
8.
その後は慌ただしかった。
見つけたラケットとボールで二人で軽く打ち合いをしているうちに夢中になり、いつのまにかパーティーの時間が迫っていた。
汗をかいてしまったので、部屋に戻ると手早くシャワーを浴びて先程のスーツに着替える。
集まるように言われた時間ギリギリで部屋を飛び出した。
……ちなみに俺のネクタイは、また先輩が結んでくれた。
今度はお互い集合時間の方が気になっていたので、最初の時のような気まずさはなく、後でそれに気付いて俺はこっそり胸を撫で下ろした。
初日からこんな調子で、身が持たない気がする。
「本当にこういうのは苦手なんだな」
聞き慣れた声で意識を引き戻される。
グラスを手にした先輩は、ため息をついたらしい俺を見て苦笑いしている。
パーティーが始まってから、もう大分時間が経った。
桜吹雪さんから他の乗客に紹介され、手塚部長が代表で挨拶した後は各自自由にディナーを楽しんでいる。
普段目にすることのないような料理は確かにどれも美味しかった。
ただ、食事が一段落してしまうと途端に手持ち無沙汰になる。
正確にはいろいろ話し掛けられたりもするので、手持ち無沙汰というわけではないのだけれど、知らない相手と愛想良く歓談するなんて芸当は俺にはどうしたってできない。
どこかの馬鹿のように、ひたすら料理に食い付いていられればまだマシなんだろうが、あいにく満ち足りてしまっている。
結局、しきりに話し掛けてくる大人たちと上手く渡り合える乾先輩の陰に隠れる形になった。
「もう勘弁して欲しいッス……」
「テニスはいつから始めたの?」「部活はどんな感じ?」「やっぱり将来はプロを目指すのかい?」と繰り返される質問に心底辟易した顔をしている自覚はある。
ぼやく俺を見て乾先輩は小さく笑った。
「外で少し風にあたるか?」
先輩の提案はとても有り難かった。
慣れないスーツも息苦しくて、疲れているのもお見通しなんだろう。
グラスだけを手にして二人で会場を抜け出した。
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